相田みつを 『ひとりぼっちのつばめ』
「ひとりぼっちのつばめ」
十一月六日の朝 街の中の電線にわたしは、 一羽のつばめを発見しました。 陽は高く昇りながら 空気の冷たい朝でした。 つばめだとわかったのは 椋鳥の群れがきてそれを追い払ったときです。 ひえびえとした空気の中を 飛び立った姿は まちがいなくつばめでした。 夏の頃の敏捷さはなく 気のせいか なんだか弱々しい飛び方でしたが 椋鳥に追われて 空の彼方に飛んでゆきました。 仲間の群れから外れて 南へ帰りそびれたつばめでしょう。 ここは間もなく 冷たいカラッ風が吹くから つばめの冬越しはできません。 海を渡って仲間のところへ 飛んでゆく力がないならば、 少しでもあったかい 南の方へ飛んでゆくがいい。 あったかいところで、 来春、仲間がくるのを じっと待つがいい 椋鳥よ、 多勢を頼んで ひとりぼっちの つばめをいじめないでくれ ひとりぼっちのつばめは お前達にいじめられても 声も出さずに逃げたじゃないか 「お父さん!!お母さん!!」 と、声を出しても 飛んできてくれる 親がいないからです。 どんなにいじめられても どんなにつらくても 親のない子は 声を出して泣かないそうです。 声を出せないのじゃない 出しても空しいからです。 どんなに泣き叫んでも だれもきてはくれないからです。 声を出して泣ける子はしあわせなんです。 椋鳥達に追われた ひとりぼっちのつばめは 泣き声も出さずに 冷たい空の彼方へ飛んでゆきました。 声は出さないけれど つばめは泣いていたのです。 声を出さずに 小さなからだをふるわせながら 泣いて行ったのです。
by fancy824
| 2008-09-01 13:52
| エッセイ、本
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